サワードウなペットを飼う

 

それは2020年3月のことです。

新型コロナウイルスが徐々に広まり、不安にかられた人々がhamsterenにせっせと励んでいた時期です。ツレが缶詰(豆類)、パスタ、大量のタマネギ、乾燥豆などの保存食の他、小麦粉を買い込むようになっていました。小麦粉。何のため?

非常時はパンは自分で焼け。

なるほど、そんならとドライイーストを買い求め、心の底から食べたかったココアメロンパンや食パン作りに励んでいましたが、ドライイーストがしょっちゅうなくなるので、自然酵母にトライすることにしました。インターネットで作り方を探していたところ、目についた「サワードウブレッド」。サワードウブレッドは、オランダではZuurdesem broodといいます。サンフランシスコがサワードウブレッドの聖地なんだとか。

サワードウブレッドは、ドライイーストの代わりに小麦粉と水を繰り返しフィード(feed)することでできる発酵培養物でパンを作ります。その発酵培養物は、ルヴァンといったり、スターターと言ったりします。親子三代で継いでいるスターターもあるそうです。小麦と水だけでパンが作れることに感動し、早速、サワードウブレッドの元、スターターを作ることにしました。

スターターをライ麦粉で培養するレシピもありますが、小麦粉でもOK。全粒粉をちょっと入れるとなおよし。とりあえず手元にある小麦を使うことにしました。パンの元として使えるようになるまでには2週間はかかるそうです。水と小麦の重さは同量の1:1。季節(室温)によりますが、3~5日たつと、表面や側面にフツフツと泡が立つようになるのだとか。

 

スターター作りをはじめたはいいが…

同量の水と小麦をまぜまぜし、ガラス瓶に入れて様子を見ること4日目、ほんとだ、フツフツと泡がたっています。

 

その次はレシピを読むと、「瓶の中にいるスターターのボリュームが増してきます。2倍くらいまでボリュームが増した後、かさが落ちます。その時がフィードの合図です」。フィードとは新たに水と小麦を加えて、発酵しはじめたスターターに住むバクテリアに栄養を与える作業。1日1回は行うそう。早く大きくなれーとせっせと水と小麦を加えます。Rise&Fallの繰り返しはまずまず順調。

 

なのですが、スターターがずんずん増えていきます。ガラス瓶では収容しきれなくなり、ジャーに移し、ジャーもすぐにタプタプになり、他のジャーに移し替え、冷蔵庫にはスターターが2瓶もできてしまいました。めでたくパンを焼くまでの2週間、いったい何瓶できてしまうのでしょう。そして、どの瓶をスターターとして使えば??

やがて最初の瓶のスターターの上にうっすらと黒っぽい液体が浮かぶようになってきました。嗅ぐと、なんとも濃い匂い。チーズっぽいというか。

レシピによると、液体が生じるのはバクテリアの「腹減った~!」サインで、チーズっぽいのは発酵している証拠という情報と書いてあります。成長の証なのでしょうか、この黒い液体。

そしてスターターは増殖し、冷蔵庫は瓶が1つ、2つ、3つ、4つと増えていき、2ばん瓶も3ばん瓶も黒っぽい液体をたたえるようになっていきました。バクテリアを育てるというよりも、「腹減った。なんかくれ…」とぽたぽた液体を出し続ける妖怪を飼っているような気分に。なにかが間違っていると、腰を据えてレシピを読み返すと、「discard」の単語に気がつきました。

捨てる。

「スターターはフィードし始めたら、全体の80%くらいを潔く捨て、残り20%に新たな水と小麦を加えます」。えぇぇぇ~❕ 捨てるぅぅ?? フィードしか見てなかった。フィードは間違いではなかったけれど、「捨てて、フィード」が正しかったのです。

英語のサイトで、サワードウブレッドを作っているベーカリーやホームベーカーに「スターター、分けて下さい」とお願いすれば喜んでもらえますよという記事を読み、そんな気前いいベーカリーがいるんだろうか、明るくてフレンドリーなアメリカだけなんじゃないかと思ったけれど、そういうことだったのですね。

申し訳ないけれど、瓶1、2、3、4には成仏してもらい、仕切り直すことに。そして今、3年目に入ったスターターは、元気に育ってます。

 

ペットなバクテリア

サワードウの素になるスターターには色々な小さな小さな生き物、バクテリアがすんでいます。50種以上の乳酸菌と20種以上の酵母が生息しているといわれており、バクテリアの種類は小麦の種類、国、台所の環境、温度、湿度などで変化するそうです。新鮮な水と小麦を加えると、バクテリアさんたちが活発に活動をはじめ、泡を出しながら元気に盛り上がります。その様子は、フィードというよりも、ペットに餌を与えるような感じ。だからか、サワードウにはまった人たちは、スターターに名前をつけたがります。うちのスターターも然り。お名前は、たけし君です。

たけし君で作るパンは、ほとんどこねる必要がありません。たけし君をサポートする程度に合計30分ほど手をかけ、あとはたけし君にすむバクテリアにお任せします。パンを焼くまでに約1日。ゆっくりと発酵させるので、グルテンが少なくなり、胃に負担がかからず消化がいいのもサワードウブレッドの特長です。

 

スターターの作り方
【用意するもの】

  • 熱湯消毒済のガラスの瓶
  • 小麦 50g
  • 水 50g

【作り方】

  1. ガラスの瓶に小麦と水を入れてよくかき混ぜ、蓋をゆるく締める(注:空気もスターターの餌です。蓋をきっちりしめて密封にしないように!)
  2. 表面に泡がたちはじめたら発酵がはじまっている証拠。50gくらいを捨て、水20g、小麦20gを与えます
  3. 毎日、エサやりをします
  4. 2週間くらいたった後、ボールに水をはり、スターターをひとさじくらい、その水にぽとっと落とします。水に浮いたら、準備OK! パンに使いましょう!

 

250gのパンのレシピ
【用意するもの】

  • スターター 50g(小麦粉に対して20%)
  • 小麦粉 250g(全粒粉50g+小麦粉200gでもよい)
  • 水 160~170gくらい(小麦粉に対して60~68%くらい。70~80%のレシピもあります)
  • 塩 5gくらい(小麦粉に対して2%)

【作り方】

  1. ボールに水(冬ならぬるま湯)をはり、スターターを溶かします
  2. 1.のボールに小麦粉を全て入れて、よく混ぜます。布巾かビニールにボールを入れて、室内で1時間くらい放置します
  3. 塩を入れて10~15分くらいこねて、グルテンを強化します
  4. 1時間くらい放置します
  5. 水で濡らした手で4隅くらい端をひっぱってフォールディングします
  6. 室内で1時間放置
  7. 5.と同じ作業をします
  8. 室内で1時間放置
  9. コイルフォールディングをします(1回目)
  10. 45分~1時間放置
  11. コイルフォールディングをします(2回目)
  12. 1.5倍くらいになっていれば発酵状態OK。ファイナルシェーピングをして米粉をはたいたバヌトン(発酵籠)に入れて冷蔵庫で一晩おきます
  13. 翌朝、ダッチオーブンかルクルーゼのような琺瑯の鍋をオーブンに入れ、240度にします
  14. クッキングシートを用意し、バヌトンに入ったパンの上に米粉をふりかけ、クッキングシートに籠をひっくり返してパンを置きます。
  15. スコアリング(パンに切れ目を入れる)します
  16. 厚くなった鍋の中にパンを入れて、240度オーブンに入れて35~45分くらい焼きます
  17. 鍋の蓋をとって、200度くらいまで落としてさらに20分くらい焼きます

 

【参考になる動画】
スターターの状態や、フォールディング、スコアリングのやり方など参考になります。

Full Proof Baking

アメリカのKristenさんのサワードウレシピ動画。元々サイエンティストだったそうで、丁寧に詳しく、そして愛情たっぷりに作り方を教えてくれます。最初の頃すごくお世話になりました。ただしアメリカの小麦なので、水の量などは若干異なる印象。映えまくりなインスタも素敵です。

The Bread Code

ドイツ男性のサワードウ動画。この人もはまりまくっています。ドイツなので小麦と水の配合はオランダに近いかもしれません。ライ麦でスターターを作っています。

 

おまけ:ハマるスコアリング

サワードウにはまった人が、さらにはまるのがスコアリング。焼いている最中にパンをうまく盛り上がらせるために生地に切れ目を入れるのですが、切れ目を工夫するとなんとも美しいパンが出来上がります。生地の発酵具合、米粉のはたき具合、切れ目の深さなどなどで、思い通りの模様ができるとは限りません。結果は鍋のフタを開けてのお楽しみ。

 

 

 

 

 

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