取材での裏話や誌面に載りきらなかった内容など、こぼれ話を一挙公開します!
mooi-mooiをより深〜く読んでいただければうれしいです♡
今号の「こぼれ話」はこちら⬇️です。
①チーズスペシャリストはもっと語りたい
ライター may
今号のチーズ 特集では、チーズスペシャリストとしてJesseさんにご協力いただきました。
アンケート形式の質問を用意し、回答いただいた後、聞きたいこと、深掘りしたいことを直接インタビューさせていただこうというのが当初の予定でした。
しかし、Jesseさんからのアンケート回答を見てびっくり。とっても役立つ情報が満載な上にJesseさんのユーモアと人柄に溢れた内容だったので、「あ、これはインタビュー不要だな」と(笑)。インタビューなしで誌面ができあがりました。
誌面では載せきれなかったチーズ情報とJesseさんのチーズ愛をどうぞ存分にご覧あれ。
Jesseさんが選ぶチーズ・ベスト3を教えて!
母親に「子供の中で誰が一番好き?」と質問しているような..…。
難しいですね(笑)。僕たちの美しいチーズを、皆さんにもっと好きになってもらえるようがんばって答えます!
回答したチーズは Holland Kaascentrum で購入できます。
1位:Boeren Klassiek
2年熟成の農家チーズです。チーズの品質には牛の飼料や飼育環境、気候、地質など、たくさんの要素が関係しています。
農家チーズは生乳を使用するので、その影響がより大きくでるんです。
僕はよくHazeswoude-rijndijkにある農場から購入しますが、どの生産者から入手するかはさほど重要ではありません。最も重要なのは購入する前に試食をすること。
農家チーズは個体ごとにかなり味が違うことがあるので、試食をして好みの味かどうか確かめましょう。
個人的には、Boeren Klassiekのように芳しい木の香りとわずかにナッツのような後味がある、強い味のチーズが好きです。
2位:Gouden Hollander
本誌でも紹介したチーズ農家組合「CONO」の3年熟成ゴーダチーズ。
殺菌乳を使い、乳脂肪分は均一化されています。夕食後や、友人を招いた時にチーズボードにのせて食べることが多いですね。
3位: Jersey kaas Oud
12か月熟成ゴーダチーズのフレッシュなチーズ。
その名の通り、ジャージー乳が使用されています。僕はこのチーズが大好きで、 昼食にパンにのせたりして、毎日食べています。ジャージー乳はクリーミーなので、パンとの相性はバッチリです。
結局、どうやって食べるのがおいしいの?
んーっと(苦笑)。
「オランダのチーズと相性の悪い食べ方は?」と聞かれたほうが答えらえるかも。
オランダではパンと食べることが多いので、それしか食べ方がないと誤解されていることがありますが、クリーミーなタイプは料理にあうし、様々なフレーバーを楽しむチーズ各種盛り合わせもいいですよ。
目的に合わせたオランダチーズの食べ方を紹介している書籍『de Nederlandse kaasplank』などを読んでみるといいかも。(編集部注:de Nederlandse kaasplankはFacebookもあります)
個人的に好きなのは、4種のチーズを使ったリゾット。
オランダチーズを楽しむために、まず揃えたい用具って?
まず、スライサーはマストですね。さらに、おろし金と、できればハードチーズ用とソフトチーズ用のナイフを揃えるといいでしょう。オランダのチーズ調理器具メーカーではBoskaが有名で、たいがいのチーズ用品が揃います。
チーズの保存に仕方を教えて!
オランダチーズをはじめチーズの素晴らしいところは、熟成チーズが示すように、時間の経過は「変化」していくということで、質の低下を意味しません。
とはいえ、他の乳製品に触れたた手でチーズを扱ったり、空気に触れた表面を切り落とさずにいるとカビが生えてしまうことがあります。熟成されていればいるほどカビは生えにくいですね。カビ対策の有効な手段は「食べ続けること」です!
もし、カビが生えたとしても、慌てないで。
カビは外側だけで、カビ部分を0.5〜1cmほど切り落とせば大丈夫。食べられます。
オランダ産チーズと他国のチーズの違いはどこにある?
フランス産チーズと比較してみましょう。
ブリーはクリーミーだけれどスライサーでカットできないほど柔らかく、硬いマウンテンチーズは食感も後味もかなりドライ。一方、オランダ産は硬めが多いです。
でも、熟成度の高い硬いチーズでもクリーミーな後味があります。それがオランダ産チーズのユニークな点です。
オランダ産チーズのトリビア
②チーズ専門店のリックさん
ライター hiromi
「行ってみたよ♪チーズ専門店」ではチーズ専門店での買い方や農家チーズの魅力について紹介しました。
しかしチーズに劣らぬ魅力を発揮していたのは店主のリックさん!
心をつかむキャラクター
「丁寧に受け答えをしたいから、お客さんの少ない時間帯にしてね」と、mooi-mooiの取材を快く引き受けてくれたリックさん。
しかし、彼は“丁寧”どころか、天性のエンターテイナーだったのです!
飛びっきりの笑顔での受け答え、そしてカメラを向けられた瞬間、すぐにポーズをとってくれる。チーズが美しく見える角度や写真映えするチーズカッターの持ち方、そして自分の見せ方も熟知していて、取材が進むにつれリックさんのカッコよさがどんどんと増していくのです。
チーズを紹介してもらう度に切れ端を試食させてくれて、気づけば両手がチーズの切れ端でいっぱいになっていました。
そんなリックさんが心から大切にしているのはお客さん。
お店にお客さんが来た際には取材を直ちに一時停止し、接客に全力を注ぎます。リックさんの人柄があまりにも良すぎて、お客さんの少ない時間帯だったにもかかわらず、「いつものチーズを」と常連客の出入りは絶えませんでした。
洗練された職人技
まるでチーズ界の王様のようなリックさん。
そこには職への深い情熱と誇りがあります。
元は全く別のお仕事をしていたようですが、チーズ農家に婿入りしたことをきっかけにチーズ界へとシフト。
根っからのチーズ好きだったこともあり、チーズに関するありとあらゆる知識を身につけ、今はビジネスパートナーのリセットさんと一緒に自身のお店を構えています。
お客さんの要望に応えるべく、鉈のような巨大カッターで塊チーズを切り分けたり、ワックスを切り落としたり、形を整えたり(その傍らで、餌待ちの小鳥のようにチーズの切れ端を待つ私たち)。
圧倒的な知識量と腕前に、ついつい見入ってしまう私たち。
紙面で紹介したmooi-mooiイチオシのチーズ「Soete Hollander」を撮影する際にはワックスに包まれた真っさらなチーズを引っぱり出してきて、わざわざ写真のためにカットしてくれたんですよ!
「丸ごとチーズを切るのにこんなにも技術が必要なのか!」と感心してしまいました。
実はこの日、コロナ禍の外出自粛期間を経て、約半年ぶりに生取材を行いました。
③チーズジレンマ
編集長 水迫尚子
チーズを特集したうえで白状しますが、私はチーズが苦手です。
嫌い、とは違うんです。なぜなら、ピザやチーズたっぷりのラザニアやグラタンなど溶けて他の味と混じればむしろ好きだし、レアチーズはだめでも、焼きチーズケーキは食べられます。いや、待て。溶けてもゴルゴンゾーラは無理だった。焼きチーズケーキもチーズ配合の閾値を超えるとキビシイ。
チーズ好きの人たちにそう伝えると、最初の反応は「うそ!なんで?」。このリアクションは日本人でもオランダ人でも同じで、日本人のほうがやや驚きが大きく、「そうなの?本当に??」と、嘘こいてるんちゃうかともう一度確かめようとする人もいます(いやいや、そんなしょーもないウソ、つきませんて)。
「オランダにいる意味、半分なくない?」と、さらにたたみかけられることも。オランダ人の場合は、チーズがあまりにも日常食なので、「あら」とびっくりしますが、それ以上問いかけることはしません。こんなところにも、おいしいものへの貪欲レベルの違いが見てとれます。
チーズ好きな人の辞書に「苦手」という言葉はない
そしてどちらの国の人にも共通するのが、苦手と伝えたのにも関わらず、次の機会にもチーズが出される頻度が高いこと。チーズ好きの人たちはチーズ苦手の認知機能が働かず、情報がなかなかインプットされないようです。「ごめんね、チーズ苦手で…」と再び伝えると「あ、そうだったね、ごめんごめん」。あるいは、「うそ!なんで?!」とふりだしに戻ります。
日本への一時帰国でも、おみやの人気トップはチーズです。手を替え品を替え、様々なものをオランダから調達したけれど、「わざわざ、そんな~」と遠慮もされず、「あら、珍しい」と義理お礼も受けず、渡した途端に顔がほころぶ唯一のおみやはチーズであることが分かりました。なので、日本に帰る前はチーズ専門店で大量にチーズを買い込みます。
チーズ専門店で困るのは、「このチーズはどんな味ですか?」と質問した途端、「んな、説明いらんやろ。食べろや」と即座に試食を削ってくれること。
店に入った途端に削ってくれることもあります。
かたまりチーズがいちばん苦手なので、申し訳ないけれど口にできません。無理やり食べたこともあるけれど、飲み込むのが精いっぱいで反応に目を輝かせるお店の人の期待に沿うことができませんでした。
なので、チーズ専門店に行くときには必ずツレのオランダ人Pどんを連れていき、私の代わりに試食してもらうようにしています。「この人はチーズ通」「この人はあっさりが多分好き」「この人はワインと一緒に楽しむ」と事前ブリーフィングをしておけば、日本に8年ほど暮らしただけあって的確に選んでくれます。
専門店のチーズ愛
と、チーズ苦手の口上をだらだらと述べましたが、今回はチーズ特集です。チーズ専門店取材が待っています。担当ライターさんたちはチーズ好きだし、編集作業には何ら問題はないし、私は撮影だけだし。問題ないはず!
訪ねたのはアムステルダムザウドにあるモールGelderlandpleinのAlexanderhoeve。
ソーシャルディスタンスを保ちながらの営業ですが、ひっきりなしにお客さんが入ってきて、けっこう忙しい。
「フレッシュなの」とか「すごくすごくフレッシュなの」とか、言うまでもなくいつものアレとか、いろんな買い方をしています。そんなお客さんを興味深く観察していたところ客足がふと途絶え、取材開始。「何でも聞きなさい!」と店主のリックさん。
オランダ育ちのひろみさんが質問しはじめると、電光石火の速さで試食タイムになりました。はや!
どうしよう。何て言って断ろう。
ここは無理にでも食べたほうがいいかなと秒速で葛藤している間にもリックさんがひょいひょい削っていきます。私の分も削ろうとしてくれたところで、私のチーズ苦手を知っているひろみさんが「彼女はチーズが好きじゃなくて」。リックさんのチーズを切る手がピタととまり、私を顔をじっと見た後、入り口の方を指さし、ひとこと「Get out」。
もちろんジョークです。
大柄で豪快なオランダ人おじさんたちはこの手の黒いジョークをよく飛ばします。いやいや、リックさん、半分本気だったかも。そのくらい彼のチーズ愛は深かった。リックさんだけではありません。チーズ専門店の人たちはチーズ愛に溢れているのです。説明する時の嬉しそうな顔は、自慢のわが子を話す親のよう。
「うちの子、こんなこともできるようになってさー」と話し始めた人に間髪を入れず「それ苦手です」って返したら、めちゃくちゃ気分を害しますよね。
そんなことしたくないのに、「すごいねー」って一緒にうなずきたいのに、それができない。
できないなら、そういった会話に一切加わらなければいいのに、そう割り切るにはあまりにも楽しそうで、ついつい戻ってしまい、でも会話には加わらずに窓の外から楽しそうな様子を眺めている。